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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)310号 判決 1999年3月23日

横浜市緑区長津田町2565番地8

原告

ハイテック株式会社

代表者代表取締役

中村實

訴訟代理人弁護士

小坂志磨夫

小池豊

櫻井彰人

同弁理士

辻三郎

アメリカ合衆国

アイオワ州デモィン ハッベル・アベニュー2425

被告

タウンゼント・エンジニアリング・カンパニー

代表者副社長

アル・ディー・ラーソン

訴訟代理人弁護士

花水征一

大平茂

同弁理士

竹沢荘一

主文

1  特許庁が平成8年審判第13790号事件について平成9年10月30日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文1、2の項と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  原告は、発明の名称を「ソーセージ等の製造装置」とし、昭和56年3月25日に特許出願、平成2年8月20日に設定登録された特許第1573586号の特許発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。原告は、平成8年8月16日に本件発明に係る特許の無効の審判を請求した(ただし、最終的に審判請求の対象とされたのは、本件発明のうち、明細書の特許請求の範囲1の項及び4の項に記載された発明についての特許である。)。特許庁は、同請求を平成8年審判第13790号事件として審理した上、平成9年10月30日に「特許第1573586号発明の明細書の特許請求の範囲第1項、第4項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし、その謄本を同年11月5日に原告に送達した。

2  本件発明の特許請求の範囲

(1)  特許請求の範囲1の項(以下「本件第1発明」という。)

ソーセージ等のケーシング中に充填物を充填するための充填管と、該充填管に前記充填物を供給するためのポンプと、前記ケーシングを推進するためのケーシング押しと、前記充填管の放出端から充填されたケーシングを受けとるために取り付けられ、ケーシングの一部分と摩擦的に噛み合う手段を持ったチャックと、該チャックから流出する充填されたケーシングのためのリンク形成装置とを有し、前記チャックと前記リンク形成装置はそれらの作動時に協働して前記ケーシングをリンクに形成するソーセージ等の製造装置において、

前記ポンプの回転速度を可変とする装置と、前記リンク形成装置の速度を可変とする装置の両者を設けたことを特徴とするソーセージ等の製造装置。

(2)  特許請求の範囲4の項(以下「本件第2発明」という。)

ソーセージ等のケーシング中に充填物を充填するための充填管と、該充填管に前記充填物を供給するためのポンプと、前記ケーシングを推進するためのケーシング押しと、前記充填管の放出端から充填されたケーシングを受けとるために取り付けられ、ケーシングの一部分と摩擦的に噛み合う手段を持ったチャックと、該チャックから流出する充填されたケーシングのためのリンク形成装置とを有し、前記チャックと前記リンク形成装置はそれらの作動時に協働して前記ケーシングをリンクに形成するソーセージ等の製造装置において、

前記ポンプの回転速度を可変とする装置と、前記リンク形成装置の速度を可変とする装置の両者を設け、前記充填管が回転又は非回転となるように選択する手段を設けたことを特徴とするソーセージ等の製造装置。

3  審決の理由

別添審決書の理由の写のとおりであって、要するに、本件第1発明は、審決の甲第3号証(特公昭40-27509公報)及び審決の甲第5号証(米国特許第2831302号明細書)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、また、本件第2発明は、審決の甲第1号証(特開昭53-47577号公報)、審決の甲第3号証及び審決の甲第5号証に記載された発明と審決の甲第4号証(横浜地方裁判所昭和47年(ワ)第1719号和解調書)の公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、いずれも特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきであるというものである。

4  審決の取消事由

(1)  審決前に原告に送達された審判請求書には審決の甲第5号証が添付されておらず、同証に関する主張は記載されていなかった。そして、被告は、平成9年5月23日付、同年8月1日付、同月20日付の各審判請求理由補充書(以下「本件各審判請求理由補充書」という。)及びその添付書類として審決の甲第5号証等を新たに提出した上、審決の甲第5号証により本件発明が特許の要件を欠く旨の新たな主張を付加した。ところが、審判長は、上記各審判請求理由補充書及び審決の甲第5号証を審決の前には原告に送達せず、これらは、平成9年11月5日に審決書謄本と共に原告に送達された。

(2)  しかるに、審決は、審決の甲第5号証を根拠として本件第1、第2発明の進歩性を否定した。したがって、上記各審判請求理由補充書及び審決の甲第5号証は、原告の防御権に実質的な影響を与えるものであり、これらを原告に送達して反論、反証の提出等、防御の機会を与えなかった審決は、特許法134条1項に違反してされた違法なものであるから、取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。同4のうち、本件各審判請求理由補充書及び審決の甲第5号証の原告への送達の点は不知、原告の主張は争う。

2  被告の主張

審決の甲第5号証は、以下のとおり、審決の判断に影響を及ぼすものではないから、審決は取り消されるべきではない。

(1)  審決は、審決の甲第3号証にも同様の公知技術が示唆されていると認定し、本件第1発明は審決の甲第3号証から当業者が容易になしうるとの結論に至っている(審決16頁8行ないし12行)。したがって、審決の甲第5号証の有無は、審決の結論に何ら影響を及ぼしたものではない。

(2)  原告が、被告の日本における代理店である極東貿易株式会社に対して本件発明に係る特許権に基づき申し立てた仮処分事件(以下「別件仮処分事件」という。)において、同社は、上記特許に無効事由が存することを立証するため、平成9年5月30日に審決の甲第5号証及び理由補充書を提出した。上記事件における反論中で、原告がもっぱら主張しているのは、審決の甲第5号証の技術は本件発明とその構成を異にしているとの点であり、審決が審決の甲第5号証について認定した公知技術については全く争っていない。したがって、原告に審決の甲第5号証に対する反論の機会が与えられても、審決の結論に相違はない。

(3)  極東貿易も、平成9年9月26日に本件発明に係る特許の無効の審判を請求したが、上記審判事件(以下「別件無効審判事件」という。)においても、審決の甲第5号証が公知資料として提出されている。これに対して、原告は、答弁書で反論したが、特許庁は、特許を無効とする旨の判断をしている。したがって、原告の主張立証の有無は、審決の結論に影響を及ぼしていない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

第2  審決の取消事由について判断する。

1  甲第3号証の1ないし3、第5号証、第6号証の1ないし3及び弁論の全趣旨によれば、請求の原因4(1)(本件各審判請求理由補充書及び審決の甲第5号証の提出及び送達の経緯等)の事実が認められる。

2  ところで、特許法134条1項は、「審判長は、審判の請求があったときは、請求書の副本を被請求人に送達し、相当の期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えなければならない。」と規定しているが、この規定の趣旨は、被請求人に対して請求書の内容を告知して、これに対する意見の陳述や証拠の提出等防御の機会を与えると共に、審判に誤りのないことを期することにあるものと解される。したがって、請求書の副本が被請求人に送達され、被請求人から答弁書が提出されていても、その後、請求人から新たな無効理由等の主張を記載した書面ないしこれに関する証拠が提出され、その主張ないし証拠が審決の判断に影響を及ぼすものである場合には、上記書面等は審判請求書の一部となるものとして、その副本を被請求人に送達し、これに対する意見の陳述や証拠の提出等防御の機会を与えなければならないものと解される。

これを本件についてみるに、審決において、審決の甲第5号証は、他の証拠と相まって、本件第1、第2発明の進歩性を否定する判断の資料となったものであることは、審決の理由から明らかである。そうすると、本件各審判請求理由補充書は、その副本を原告に送達し、これに対する原告の意見の陳述や証拠の提出等防御の機会を与えなければならないところ、これがされなかったのであるから、審決は、特許法134条1項の規定に違反してされた違法なものであるところ、この違法は審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。

3(1)  もっとも、被告は、審決は、審決の甲第3号証にも同様の公知技術が示唆されていると認定し、本件第1発明は審決の甲第3号証から当業者が容易になしうるとの結論に至っているから、審決の甲第5号証の有無は、審決の結論に影響を及ぼしていない旨主張する。しかし、審決は、本件第1発明が審決の甲第3号証から当業者が容易になし得るとの結論を導くに当たり、審決の甲第5号証の記載を根拠としているのであって、審決の甲第5号証なしに審決の結論に至る理由付けが成り立たないことは、審決の理由自体から明らかである。したがって、被告の主張は採用することができない。

(2)  また、被告は、原告が、別件仮処分事件において、本件発明に係る特許権の無効事由の立証のために提出された審決の甲第5号証に関して、審決が審決の甲第5号証について認定した公知技術については全く争っていないから、原告に審決の甲第5号証に対する反論の機会が与えられても、審決の結論に影響はない旨主張する。しかし、そのような別個の手続における原告の主張を根拠として、本件の無効審判における原告の意見の陳述や証拠の提出等防御の機会を与える必要がなかったと認めることはできない。すなわち、別件仮処分事件は、本件第1、第2発明の特許の無効を決定する手続ではないと解されるところ、手続が異なれば自ずと争点も、その重要性も異なるものであるから、当事者はその手続ないし争点の重要性に応じた主張をしている可能性もあるのであって、本件の無効審判手続における原告の主張立証が、別個の手続における原告の主張立証と同一であったということはできないのである。

のみならず、原告が、別件仮処分事件において、審決が審決の甲第5号証について認定した公知技術については全く争っていないとしても、それが、本件第1発明が審決の甲第3号証から当業者が容易になし得ることの根拠となるか否かは、また別の問題であるから、審決が審決の甲第5号証について認定した公知技術については全く争わないとしても、そのことによって、原告が審決の甲第5号証に関する審決の認定判断のすべてについて争っていないということもできない。

したがって、被告の主張は、失当である。

(3)  更に、被告は、別件無効審判事件において審決の甲第5号証が提出されたのに対し、原告が答弁書で反論したにもかかわらず、特許庁は特許を無効とする旨の判断をしているから、原告の主張立証の有無は審決の結論に影響を及ぼしていない旨主張する。しかし、審決の認定判断は、各事件ごとにされるべきものであって、審判官の合議体において、別の事件における認定判断に基づいて本件の無効審判事件の審決をしてはならないことはいうまでもない。したがって、特許庁が別件無効審判事件においてした認定判断が被告の主張どおりであるとしても、本件における手続違反が、違法でないということになるものでもなく、審決の結論に影響を及ぼすものではないということはできない。被告の主張は失当である。

第3  以上のとおりであるから、審決は、特許法134条1項の規定に違反してされた違法なものとして取消しを免れない。

よって、原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成11年3月9日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

Ⅰ. 請求の趣旨及び答弁の趣旨

(1) 請求人 タウンゼント・エンジニアリング・カンパニー(以下、請求人という。)は、「特許第1573586号の特許の特許請求の範囲第1項及び第4項を無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする」との審決を求めた。

(2) 被請求人 ハイテック株式会社は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めた。

Ⅱ. 手続の経緯・本件特許発明の要旨

(1) 手続の経緯

本件第1573586号特許は、昭和56年3月25日に出願され、平成1年3月6日に特公平1-13329号として出願公告された後、平成1年5月9日に異議申立人小西輝宏より、特許異議申立てがあったが、平成2年2月15日に前記特許異議中立てが取り下げられた結果、平成2年8月20日に第1573586号特許として設定の登録がされたものである。

(2) 本件特許発明の要旨

本件特許発明の要旨は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項乃至第6項に記載されたとおりのものと認められるところ、第1項及び第4項に係る発明は次のとおりのものである。

「1 ソーセージ等のケーシング中に充填物を充填するための充填管と、該充填管に前記充填物を供給するためのポンプと、前記ケーシングを推進するためのケーシング押しと、前記充填管の放出端から充填されたケーシングを受けとるために取り付けられ、ケーシングの一部分と摩擦的に噛み合う手段を持つたチヤツクと、該チヤックから流出する充填されたケーシングのためのリンク形成装置とを有し、前記チヤックと前記リンク形成装置はそれらの作動時に協働して前記ケーシングをリンクに形成するソーセージ等の製造装置において、

前記ポンプの回転速度を可変とする装置と、前記リンク形成装置の速度を可変とする装置の両者を設けたことを特徴とするソーセージ等の製造装置。」

4 ソーセージ等のケーシング中に充填物を充填するための充填管と、該充填管に前記充填物を供給するためのポンプと、前記ケーシングを推進するためのケーシング押しと、前記充填管の放出端から充填されたケーシングを受けとるために取り付けられ、ケーシングの一部分と摩擦的に噛み合う手段を持つたチヤツクと、該チヤツクから流出する充填されたケーシングのためのリンク形成装置とを有し、前記チヤツクと前記リンク形成装置はそれらの作動時に協働して前記ケーシングをリンクに形成するソーセージ等の製造装置において、

前記ポンプの回転速度を可変とする装置と、前記リンク形成装置の速度を可変とする装置の両者を設け、前記充填管が回転又は非回転となるように選択する手段を設けたことを特徴とするソーセージ等の製造装置。」

(以下、特許請求の範囲第1項及び第4項に記載の発明を、それぞれ本件第1発明及び第2発明という。)

Ⅲ. 当事者の主張

1. 請求人の主張

請求人は、本件第1発明及び第2発明の特許は、特許法第123条第1項第2号又は第4号の規定により無効とすべきであると主張し、その理由として次の無効理由を挙げている。

(1) 本件第1発明は、甲第3号証に記載された発明と同一である、又は甲第1号証乃至甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件第1発明の特許は特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(以下、「無効理由1」という。)

(2) 本件第2発明は、本件第1発明に「前記充填管が回転又は非回転となるように選択する手段を設ける」という構成要件を付加したものであるが、本件第2発明は、甲第4号証の公然知られた発明及び甲第1号証乃至甲第3号証と甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件第2発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(以下、「無効理由2」という。)

(3) 本件第1発明は、天然ケーシングに充填物を高速で充填する装置を提供することを第1の目的としているが、特許請求の範囲第1項は、前記目的を達成するために不可欠の要件を欠いているから、本件第1発明の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(以下、「無効理由3」という。)

そして、上記主張を立証する証拠方法として、次の書証を提示している。

甲第1号証:特開昭53-47577号公報

甲第2号証:東京地方裁判所昭和57年(ワ)第13322号特許権侵害行為差止請求事件における昭和60年3月4日付被告第4準備書面

甲第3号証:特公昭40-27509号公報

甲第4号証:横浜地方裁判所昭和47年(ワ)1719号和解調書

甲第5号証:米国特許第2、831、302号明細書及び図面

さらに、請求人は、証人 鎌形 荘一郎、及び証人 トーマス・エイ・フッカーの証人尋問を申請し、その尋問事項は次のとおりである。

・証人の経歴、現職

・(甲第2号証の添付資料を示して)

証人は、これを知っているか。

始めて知ったのはいつごろか。

どのようにして知ったか。

いつごろどのようにして頒布されたか。

・甲第2号証の添付資料に記載されている物品の説明

・証人は、前項の物品が日本国内において販売されたことを知っているか。

あればその時期、販売先、台数、現状等について

・その他関連する事項

2. 被請求人の主張

被請求人は、請求人の主張する上記無効理由1乃至3は、いずれも理由がない旨主張している。

Ⅳ. 甲各号証の記載事項

請求人が提出した甲第1号証乃至甲第5号証のうち、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、及び甲第5号証には、以下に示す発明が記載されている。

甲第1号証には、ソーセージ等のケーシング中に充填物を充填するための充填筒(18)と、該充填筒(18)に前記充填物を供給するためのポンプ(12)と、前記充填筒の放出端から充填されたケーシングを受けとるために取り付けられ、ケーシングの一部分と摩擦的に噛み合う手段をもった回転チャック(24)と、該チャックから流出する充填されたケーシングのためのリンク形成装置(22)を有するソーセージ等の製造装置が記載され(第3頁右上欄7行~左下欄17行、及び第1図~第3図参照)、そこにはさらに充填筒(18)を充填装置(10)に回転可能に取り付け、充填筒(18)を回転させながらソーセージ等をケーシングに充填させること(特許請求の範囲第2項、第6項、第3頁左下欄1行~2行、同欄17行)が記載されているものと認める。

甲第3号証には、ソーセージ等の被覆体(108)の中に食肉混合物を送り込む詰込管(26)、詰込管(26)に食肉混合物を供給するためのポンプ(16)、被覆体(108)を推進するための被覆体・フオロアー(34)、詰込管(26)の放出端から充填された被覆体(108)を受けとるために取り付けられ、被覆体(108)の一部分と摩擦的に噛み合うフルート(50)を持った被覆体チャック(48)、被覆体チャック(48)から流出する充填された被覆体(108)のためのリンク形成装置とを有し、被覆体チャック(48)とリンク形成装置は、作動時に協動して、被覆体(108)をリンク(110)に形成するソーセージその他の包装機械(第2頁左欄40行~第3頁左欄39行、第1図~第11図参照)が記載されているものと認める。

そこには、さらに「シヤフト56は可変直径プリー60と62、およびポンプシヤフト66からのペルト64によつて駆動される、そのさまは第4図に示してある。シヤフト56のスピードはポンプシヤフト66のスピードに関連して調整される。この目的のために第1および第4図に示したように、回転可能なスピード調節ノブ118がある。」(第2頁右欄41行~第3頁左欄2行)、「可変速度駆動装置60-62-64を用いることによつて操作者は各リンクの食肉混合物の含有量を調節することができる。たとえばもつと多量の食肉混合物が必要なら、ポンプに相対的にリンク形成チエーンの速度をおとせばよい。(第6頁左欄35行~同39行)、「いま1つの目的は被覆体に供給される材料のための調整ポンプを供給すること、および調整ポンプに関連してリンク製作機械のスピードを調整して製品の量、各リンクの長さ、したがつてリンクの重さを正確に調整制御することである。」(第2頁左欄5行~9行)、及び「被覆体チヤツク、リンク形成チエーンおよびリンク・ルーパーの操作は定常的であり、ポンプ速度はリンクあたりの重さの精度をあげるため調整される。」(第7頁右欄17行~20行)と記載されている。

甲第4号証の別紙目録には、ウインナソーセージ、フランクソーセージ等の自動充填撚結装置に関して「1は原動機を収納しているハウジングの上面でこの上に載置されたギヤポンプ2は、パイプ3を介して、充填肉供給源に接続され、その吐出口4は、フレキシブルパイプ5を介して、ノズルホルダー7の後端6に接続されている。ホルダー7の後端6は、フレキシブルバイプ5の受孔8を有し、この受孔8は、ホルダー7内を貫通する通孔9を介して、ホルダー7の前端に回転自在に取付けた中空回転ノズル10に連通している。ホルダー7の前端で、回転ノズル10を囲繞して、クラツチ11が取付けられ、クラツチ11内のクラッチギヤ14の後端(右端)は、回転ノズル10の後端に固着したコネクター12に係合して、回転ノズルを回転し得るようにされている。……………〔中略〕……………ホルダー7は、ガイドロッド15、15に案内され、かつ後方に配置したエアシリンダー19のピストン棒20に連結されて、ハウジング上を前後に往復滑動し得る。ベアリングケージ18内には、前記クラツチギヤ14の歯と係合し得る歯を後面に備えるクラツチギヤ21が回転自在に支持されている。クラツチギヤ21は、その外周の歯が、中間ギヤ22を介して駆動軸23に固着された駆動ギヤ24に噛合することによつて回転させられる。」(第2頁8行~第4頁第9行)と記載されている。

甲第5号証には、ソーセージ等の製造機械に関し「ポンプは連続的に駆動されるが、その速度は、ギヤ50、51を変えることによって調節することができる。これに代わり、ノズル46からチューブ44まで送られる材料の量は、チューブ44が進む速度と、ポンプ49の作動によってノズル46から送られる材料の量に左右されることは、言うまでもない。ポンプ49とチューブ送りローラ45の速度を適切に調節することにより、個々のパッケージ10内の材料の量を、所望の値とすることができる。」(6欄63行~74行)、「任意の長さのチューブの中の材料の量は、材料供給ポンプ49を調節して、移動中のチューブへの材料の供給量を変えることにより、制御され変化させられる。この調節は、機械の作動中に行うことができ、パッケージの大きさ及び内容物の量を、所定の値にきわめて近いものとすることができる。」(12欄56行~63行)と記載されている。

Ⅴ. 当審の判断

1. 無効理由1について

本件第1発明と甲第3号証に記載の発明を対比すると、甲第3号証における「被覆体(108)」、「詰込管(26)」、「被覆体・フオロアー(34)」及び「摩擦的に噛み合うフルート(50)を持った被覆体チャック(48)」は、それぞれ本件第1発明における「ケーシング」、「充填管」、「ケーシング押し」及び「摩擦的に噛み合う手段を持つたチヤツク」に相当し、また甲第3号証に記載の装置はリンク形成チエーンの速度を可変とする可変速度駆動装置(60-62-64)を有することから、両者は、「ソーセージ等のケーシング中に充填物を充填するための充填管と、該充填管に前記充填物を供給するためのポンプと、前記ケーシングを推進するためのケーシング押しと、前記充填管の放出端から充填されたケーシングを受けとるために取り付けられ、ケーシングの一部分と摩擦的に噛み合う手段を持つたチヤツクと、該チヤツクから流出する充填されたケーシングのためのリンク形成装置とを有し、前記チヤツクと前記リンク形成装置はそれらの作動時に協働して前記ケーシングをリンクに形成するソーセージ等の製造装置において、

前記リンク形成装置の速度を可変とする装置を設けたことを特徴とするソーセージ等の製造装置」の点で一致し、本件第1発明は、ポンプの回転速度を可変とする装置を設けているのに対して、甲第3号証には、この点が具体的に記載されていない点で、両者は相違する。

上記相違点について検討する。

甲第3号証には、「いま1つの目的は被覆体に供給される材料のための調整ポンプを供給すること」(第2頁左欄5行~6行)、及び「被覆体チヤツク、リンク形成チエーンおよびリンク・ルーパーの操作は定常的であり、ポンプ速度はリンクあたりの重さの精度をあげるため調整される。」(第7頁右欄17行~20行)と記載され、ソーセージ等の充填操作中に材料の吐出量を変化させて充填密度を均一にするために、ポンプの吐出量を変更できるように構成することが甲第3号証に示唆されていること、及び本件第1発明の装置とは前提とする構成(特許請求の範囲第1項に記載の「ソーセージ等のケーシング中に…………〔中略〕…………ソーセージ等の製造装置において」に相当する)が相違し、タイプの異なるソーセージ等の製造装置ではあるが、送りローラによりケーシングを連続的に送り出しながらポンプから材料をケーシング内に連続的に供給するようにしたソーセージ製造装置において、ポンプの回転速度とケーシング送りローラの回転速度の両方を変更できるように構成し、ケーシングの送り速度を調節するだけでなく、充填操作中にポンプからの材料の吐出量を調節して、ケーシングへの充填密度を均一にすることが甲第5号証に記載されていることを併せ考えると、甲第3号証に記載されているソーセージ等の製造装置の材料供給ポンプに、ポンプの回転速度を可変とする機能を付与し、本件第1発明のような構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

この点について、被請求人は、本件第1発明は、ポンプの回転速度を可変とする装置とリンク形成装置の速度を可変とする装置の両者を設け、リンク形成装置の速度をヶーシングの種類に応じてその許容最高運転速度を設定した上で、充填密度を均一とするためにポンプ速度(吐出量)を調整することにより、従来装置では不可能であった不定貫なソーセージ製品を高速生産できるようにしたものであるが、甲第3号証には、前記2つの装置を同時に設けることについての記載はなく、また前記2つの装置を設けることによって、高速充填が可能となり、更には多種類のケーシングへの対応が可能となるという本件第1発明の効果を示唆する記載もない旨主張している。

しかしながら、前記の「リンク形成装置の速度をケーシングの種類に応じてその許容最高運転速度を設定した上で、充填密度を均一とするためにポンプ速度(吐出量)を調整する」ことは、本件第1発明の構成要件として特許請求の範囲第1項に記載されておらず、そもそも前記事項はソーセージ等の製造装置の使用態様というべきものであって、装置自体の構成とはいえない。

本件第1発明は、ソーセージ等の製造装置の発明であり、該装置自体は上記のとおり当業者が容易になし得ることであるといえるから、被請求人の主張は採用できない。

そして、上記相違点を勘案するに、本件第1発明は、甲第3号証に記載の発明に比較して格別の効果を奏するものではない。

したがって、本件第1発明は、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本件第1発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2. 無効理由2について

(ⅰ) 請求人が提出した甲第4号証は、横浜地方裁判所昭和47年(ワ)第1719号訴訟における和解調書に添付の目録であるので、まず、この目録に記載されているウインナソーセージ、フランクソーセージ等の自動充填撚結装置が本願出願前に公然知られたものであるか否かについて検討する。

特許法第29条第1項第1号に規定の「公然知られた」は、必ずしも不特定人に認識されたことを要せず、少なくとも不特定人が認識できる状態に置かれたことを意味すると解されるところ、昭和50年12月25日付け前記和解調書は、何人も裁判所に請求することにより閲覧できるものであるから、前記和解調書に添付の目録は本願出願前に公然知り得る状態に置かれていたものと認められる。

したがって、上記目録記載の装置は、本願出願前に公然知られたものであるとするのが妥当である。

(ⅱ) 次に、本件第2発明が、甲第1、第3、第5号証に記載された発明及び甲第4号証の公然知られた発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるか否かについて検討する。

本件第2発明と甲第3号証に記載された発明を対比すると、両者は、<1> 本件第2発明は、ポンプの回転速度を可変とする装置を設けているのに対して、甲第3号証には、この点が具体的に記載されていない点、及び<2> 本件第2発明は、充填管が回転又は非回転となるように選択する手段を設けているのに対して、甲第3号証には、このような手段を設けることについて記載されていない点で相違する。

上記相違点について検討する。

相違点<1>については、上記無効理由1で述べた理由と同様の理由で当業者が容易になし得ることである。

また、相違点<2>についても、甲第1号証には、充填管を回転させる具体的な機構について記載されていないものの、充填装置に充填管を回転可能に取り付け、充填管を回転させながらソーセージ等をケーシングに充填させる方法が記載されており、かつ甲第4号証の別紙目録には、充填管を回転させる機構、即ち充填管の基端部に固定されたクラツチとハウジング内に収容された回転クラツチとを充填管の前進運動を介して噛合し得るように構成するという本件特許明細書の実施例に記載されている機構と同様のものが記載されていることから、甲第3号証に記載の充填管が回転しないように構成されているソーセージ等の製造装置に、充填管を回転させる機構を付加し、充填管を回転又は非回転とすることを選択できるようにすることは当業者が容易になし得ることである。

そして、上記相違点<1>及び<2>を勘案するに、本件第2発明は、甲第3号証に比較して格別の効果を奏するものではない。

したがって、本件第2発明は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明と甲第4号証の公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本件第2発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

なお、上記無効理由3は、特許明細書の特許請求の範囲第1項には記載不備があるというものであるが、上記無効理由1により本件第1発明の特許は無効とすべきものとされたのであるから、無効理由3については検討の必要を認めない。

また、請求人は、証人尋問により甲第2号証に記載の装置の公知・公用等を立証しようとしているが、上記無効理由1及び2により本件第1発明及び第2発明の特許は無効とすべきものとされたので、証人尋問は行わない。

Ⅵ. むすび

以上のとおり、本件第1発明及び第2発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

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